首を押さえる篠生の両手の指と指の間から、血が溢れ出る。

篠生の両目の黒目が、ゆっくりと下に動く。

下まぶたに黒目が半分くらい入ると、すっと、真ん中に戻る。

再び力が抜けていくように、黒目が下がっていく。

黒目は動き続けている。

遂には、篠生の体に力が抜ける。

両腕をだらんと下ろし、首もすわらない。

黒目の動きも止まった。

そして、だんだんと息をする力も弱まり、息を引き取った。

妻は、篠生が亡くなったのをしっかりと見送る。

妻は、にやりと口角を上げて、立ち上がる。

妻の表情は悪魔を宿したかのような面持ちだった。

妻は、横たわる娘に近づくと、両膝を地面について、しゃがんだ。

娘の頭を撫でる妻。

私は、妻に近づいた。

妻は近づいた私を見上げる。

妻の両目には、大きなクマができている。

「ごめんなさい。この子が」

妻は私に言う。

私はしゃがみ、妻を抱き寄せる。

妻は、抜け殻のように力が抜けている。

「ねえ、私を殺して」

妻は、突然、私に言った。

その言葉の意味を理解する間も無く、妻は話を続ける。

「この子が、ちゃんと、三途の川を渡れるか心配だから」

「何を言ってる」

私は答える。

「お願い。一人で死ぬのは怖いから、あなたの手の中で死にたい」

「できるはずないだろ」