「私は、生きてるんだ」

血に溺れた声で言う。

時折、血液が気管に入り、むせる。

「だって、ほら、血が出ているよ」

篠生は薄笑いを続けている。

私は、妻に視線を向けた。

その妻の姿に言葉を失った。

衣服が、びりびりに破れ、はだけている。

妻は両腕を胸に抱き寄せて、体を内側に縮こませている。

体は強張り、大きく震えている。

その妻の横で、倒れて動かない娘。

郷珠は白杖で細かく床を突きながら、妻へ、一歩一歩、近づいていく。

白状を持っていない手を前に出して、手探りで、妻を探している。

「弾かせてくれよ!」

篠生が大声を出すも、血液に溺れて、むせる。

むせる度に、ごぼっと、多量の吐血をする。

「もうすぐ、会いに行くから待っててね」

篠生は、以前の恋人の幻覚が見えているようだ。

「そんな事ないよ。初めから、死のうと思って、山に来たんだから」

篠生は、微笑みながら幻覚と話している。

篠生の顔から足まで全身が、血みどろに染まっている。

何を思ったのか、妻が突然、立ち上がった。

妻は、破れた衣類を身を覆い、篠生に近づく。

破れた隙間から、妻の柔肌が見える。

篠生の前で、妻は立ち止まる。

篠生は、立ち止まる妻を見上げた。

喉仏を掻きむしる手が止まる。

篠生の目の前で、しゃがみ込み、目線を合わせる。

妻の行動が予想外だったのか、篠生の瞳孔が泳ぐ。