「お願いします、お願いします、お願いします」

篠生は何度も、額を床に叩き付ける。

額は無数の食器の破片が刺さり、血だらけになる。

篠生は土下座を止めて、老婆を見る。

老婆は恐怖に固まって動けない。

「どうしてですか! ギターしかないんですよ」

老婆は震える手で、分厚い本を抱きしめて、顔を横に振った。

「あー!」

篠生は、叫んで、頭を抱える。

それも束の間、篠生は、床に座り動けない妻へにじり寄る。

「え、何?」

妻は怯えた表情で言う。

「私が悪魔を殺したんだ。凄いでしょ? 皆が願っていた事なんだ。誰でも出来る事じゃない。私が悪魔をやっつけたんだ」

私は妻の前に立ち塞がる。

「どけよ! お前には用は無い」

篠生は、力一杯、私を突き飛ばす。

突き飛ばされた勢いで倒れ込んだ。

その拍子に、机の角に頭を打ち付ける。

視界がぼやける。

僅かな意識の中で、妻に逃げろと言う。

しかし、それは言葉にはならなかった。

意識が遠のいていく視界の中で、篠生は、妻に馬乗りになった。

ふと気が付けば、私は、意識を失っていた。

上体を起こす。

篠生は、壁に、もたれかかって座っている。

両足は、だらんと前に伸ばしている。

その篠生の首から多量に出血していた。

篠生は、喉仏に両手で爪をたてて、掻きむしっている。

爪の間に、血が溜まり、両手は血だらけになっていた。