篠生は老婦の顔を何度も殴る。

妻は怖さで床に尻を付けたまま動かない。

その時、一瞬だけ、老婦の首を絞める力が緩んだ。

老婦はそれを見逃さなかった。

廊下を逃げる。

篠生は老婦を追う。

老婦は、ちらりと背後から追う篠生を見る。

老婦の足は、慌ててもつれる。

その拍子に、体勢を崩して、転倒した。

篠生は老婦に馬乗りになった。

再び殴る。

両手で、老婦の顔を何度も殴る。

「悪魔め! 死ね、死ね!」

老婦の顔は赤黒く腫れ上がり、瞼が腫れて、目が見えない。

口からは出血し、歯は何本も折れている。

私が止めに、篠生の肩へ手をかける。

しかし、その時には、老婦は抵抗は無く、息を引き取っていた。

「はは。やった。私がやった」

篠生は薄笑いを見せる。

篠生は妻を見る。

「見てください。私が悪魔を殺しました。奥さん、あなたを守ったんです」

篠生は立ち上がる。

両手の拳は、老婦の血が滲む。

「代弁者様、私が、悪魔を殺しました。私のギターを返してください」

老婆は、首を震わせながら、顔を左右に振った。

老婆は怯えた表情で、声が出せない。

「どうしてですか、代弁者様。私は、皆の為に、悪魔を殺したんです。お願いします」

篠生は、老婆の目の前で土下座をする。

食器の破片が、篠生の額に刺さり、血が滲む。