「どうしたの? ねえ、しっかりして!」

田堂の母が息子の体を揺する。

しかし、ぐったりしたまま動かない。

首がすわらずに、顔を自らの肩に乗せたまま、亡くなっていた。

田堂の息子の頬に血の滲んだ涙が一つ伝う。

その涙は、頬の膨らみや、頬骨の凹凸により、緩やかな曲線を描く。

「あー!」

田堂の母は、奇声を上げて、包丁を手に取った。

頭の上に包丁を振り上げる。

田堂の母は、見開いて、篠生を見る。

篠生は腰を抜かして、田堂の母を見上げる。

田堂の母は、瞳孔を震わせて、篠生を見下ろす。

「あー!」

田堂の母は、何度も奇声を上げる。

感情を言葉にする事も、もう出来なかった。

田堂の母は、包丁を逆さに持ち替え、包丁の柄を両手で握った。

包丁の先端が、田堂の体に向けられる。

「あー!」

再び、奇声を上げた瞬間、その包丁の先端を田堂の母の腹部に突き刺した。

あっという間の出来事だった。

どくどくと脈動に合わせて、刺し傷から血液が溢れ出る。

その脈動も見る見るうちに弱まり、溢れる血液も少なくなっていく。

田堂の母は、すとんと体勢を崩し、倒れた。

息も散り散りで、息子の顔に手を伸ばした。

あともう少しで届く所で、力尽きた。

「はは」

篠生は、薄笑いしている。

篠生の目は一点を見て、瞬きをしていない。