見るに恐ろしい光景に息を呑んだ。

まるで劣悪な豚小屋のようだった。

床に足をつけられない子供は、子供の上に子供が乗っている。

数名は、子供達の下敷きになり、口から唾液を垂れ流して死んでいる。

子供達は皆、覗き込んでいる私に気が付かないのか、目線を向けない。

更に廊下の先を見た。

ずっと奥に在る牢屋から橙色の柔らかな明かりが漏れている。

私はその明かりへ誘われるように歩みを進めた。

その牢屋から何やら声が聞こえる事に聞く気が付いた。

近づくにつれて、その声が段々と鮮明になる。

「助けて、いや、お父さん!」

娘の声だ。

私は走った。

足で踏み込む度に、床の湿り気が、ぴちゃぴちゃと音を立てる。

漏れ入る明かりに影が映る。

子供がうずくまり、それを大人が鞭で打ち付けている。

その牢屋に着いた。

鉄格子に顔を覗き込む。

ランタンが一つ置かれているだけで、誰も居なかった。

「どうしたんだい」

老婆の声が聞こえて、咄嗟に声がした方向へ顔を向ける。

更に奥に続く廊下に老婆が居た。

老婆の前には、黒い大型犬が居る。

私は、ひぃっとして、一歩後ろへ下がる。

ぐるる。

犬は鋭い牙を剥き出しにして、私を睨む。

老婆はその犬を手懐けているようだ。

「お行き!」

老婆は犬に指示を出す。

その指示を待っていましたと言わんばかりに、犬が私に向かって駆け出した。

私は、走った。

シャッターの在る方向へ無我夢中で走った。

ちらりと背後を振り向くと、犬は追いかけてくる。

その距離はじわりじわりと縮まっていく。

私はシャッターまで辿り着いた。

シャッターに手をかけて、力一杯、下ろす。

一瞬の差で、何とか、シャッターを下ろす事に成功した。

どん。

犬がシャッターに追突する音が響く。

私は息を整える間もなく、店内へ行く。

その足取りは興奮のあまり、一歩一歩が跳ねる。

店内も相変わらず薄暗い。

二つのランタンの明かりが何とか周囲を照らしている。

店内には、皆が居た。

老婆も居る。

娘も居る。

娘の姿を見て、安堵するも束の間、異様な光景を目の当たりにした。

皆は、笑っていた。

口を大きく開けて、けたたましく笑っていた。

私の興奮は一気に冷やされた。

ぞぞっと、身の毛がよだつ。

皆は一つの方向へ顔を向けて笑っていた。

その方向には、テレビがある。

映らなかったテレビは、何やら映像を映している。