もう間もなく、日付が変わろうとしていた。

皆は疲れ果て、目が、うつろになっている。

私もその一人だ。

悪魔は人の姿のまま、死んでいた。

妻は娘と体を寄せて眠っている。

老婆も頭をこくりこくりとして、まどろみにいる。

田堂の親子もまどろみに入り、いつ寝ても良いだろう。

皆が、まどろみにある状態を見て、私は不思議な安心感を覚えた。

何だろうか。

私は気が付いた。

悪魔に恐れているのではなく、人に恐れていた。

助かりたいと願う思いが交錯している。

しかし、寝ている時だけは、人は同じ様子になる。

そう考えているうちに、私の視界も、まどろみに溺れていった。

 目を開くと、私は、厨房に居た。

「お父さん、助けて」

厨房にあるシャッターの向こう側から娘の声がする。

私は、シャッターを開けようと試みるがびくともしない。

「今開けるからな、待っていろ」

私は屈んで、腰に力を入れ、全力でシャッターを持ち上げる。

少しずつ開いていく。

半分程、シャッターが持ち上がると上体を上げて上へ押し上げる。

シャッターが開いた。

このシャッターは納品された食材の搬入場所だと思っていた。

しかし、シャッターの向こう側には、施設が続いていた。

薄暗い廊下。

湿気が充満した、むさ苦しい空間。

時折、天井から結露が滴る。

その廊下は真っ直ぐに続き、窓は一つも無い。

廊下の左右には、鉄格子で仕切られた部屋が連なっている。

私は廊下へと足を踏み入れた。

ゆっくり歩いていく。

まるで、牢獄を見ているかのようだった。

鉄格子の中に目を凝らす。

床に、注射器が転がっている。

奥の鉄格子の中を見る。

何も無い。

更に奥の鉄格子の中を見た。

何も無い。

いや、視界に何か映った。

部屋の片隅に固まっている何やら動物が居た。

目を凝らす。

そこには、幼い子供が数人見えた。

身を寄せ合っている。

視線を子供達の足元に向けると、その子供達の下にも子供達が居た。

部屋の床には、体を密着させている子供達が大勢居る。

糸を通す隙間も無い程に密着し、まるで子供達の絨毯だった。

見渡すも、そこに娘は居ない。