老婦は、渋々、三百円を受け取り、マスクを渡した。

「お告げだ。皆よ、よく聞くが良い」

老婆は言うと、客の皆は注目する。

「午後六時、午後九時、午前零時のいずれかに一人死ぬ」

老婆はそう告げた。

ふと、時計を見る。

間もなく、午後六時を迎えようとしていた。

これから何日、この者達とここに居れば良いのだろう。

私は不安に駆られる。

「そうかい、誰が死ぬかは預言出来るのかい?」

老父は老婆なや訊ねる。

「それは出来ない。しかし、悪魔にならない為に出来る事はある」

老婆は答える。

「なんだい、それは」

「食事を用意せよ。太古より、人は食べる事で活力を見出してきた。悪魔は活力のある者をそう簡単に喰ろうとはしない」

「悪魔は弱っている者から食べるのか?」

「そうに決まっているだろう。弱っていれば、抵抗されないからな」

老婆は静かに答える。

「それじゃあ、私が作ってくるかね」

老婦はそう言うと立ち上がる。

「私も手伝います」

妻も腰を上げる。

「いいや、大丈夫ですよ」

老婆は妻の言葉を制止させるように重ねて言う。

妻は戸惑いながら、腰を下ろす。

「わかりました、お願いします」

妻は答えた。

老婦は厨房へ向かった。

「皆、大した料理は作れないから、あまり期待しないでくれよ」

老父は我が物顔で客の皆に言う。

老婦の背が陰る。

娘はカーテンをちらりと捲り、外を見る。

暗闇に深い濃霧が漂っている。

その中に、ぼんやりと赤い光が漂っていた。

その赤い光は複数存在し往来していた。

「何をしている!」

老婆は慌てて立ち上がると怒鳴った。

娘は、ぱっとカーテンを閉じて、老婆を見た。

「もし悪魔に見つかったらどうするんだ!」

老婆は早口で怒鳴る。

娘は、しゅんと俯く。

その老婆の剣幕に、娘の目はうるうると涙を滲ませる。

老婆は席に座る。

「でも、これでわかっただろう。あれは、悪魔の目だ。もう間近に、悪魔が居る」

老婆は穏やかに言った。

「わしらは助かるのか?」

老父は聞く。

「必ず助かる。アーが自衛隊と共に駆けつけてくれる」

「アーは神なのか?」

「アーは誰よりも近しい存在だ」

老婆は答えた。