夏休みが明けて一ヶ月──。
秋の色が少しずつ風景を包み始めているのに、今朝はまだ夏かと思うほど暑い。


暑さに弱い彼は、きっと不機嫌な顔をしているに違いない。そんなことを考えながら玄関のドアを開けると、気怠そうにマンションの廊下の壁にもたれている幼なじみがいた。


「おはよう」
「おう……」


揃った挨拶は正反対のトーンで、なんだかおもしろい。予想通りの態度に小さく笑えば、面倒臭そうなため息が零された。


夏生まれで、陽太(ようた)。だけど、彼はその名前に似つかわしくないほどに夏が嫌いで、夏休みはエアコンの効いた部屋で引きこもるのが毎年恒例だ。


「陽ちゃん、ご機嫌ななめだね」

「クソ暑い時に笑えるか」

「私、前に乗ろうか?」

「お前のスピードだと遅刻するだろ。いいから、早く乗れ」


エレベーターを降りて自転車置き場に着くと、陽ちゃんはさっさと自転車を出してサドルに跨った。「はーい」と笑った私が後ろに乗って彼に捕まると、自転車が動き出した。

ふたり乗りの自転車は、青空の下をゆっくりと走る。たまに聞こえる「暑い」という独り言に何度か笑ったあと、学校が見えてきた。