そんなこんなで、とくに見どころのないコボルト戦が終わったあと。
 俺は物資調達のために、城壁内にある倉庫へと向かった。

 というか、物資の調達こそがここに来た目的だったからな。
 案内用の看板があるわけでもないので少し道に迷ったが、だいたい荷車のわだちをたどっていったら倉庫の群れが見つかった。
 とりあえず、倉庫の内のひとつに入ってみると。

「おお……」

 どうやら武具の倉庫だったらしい。
 倉庫内には、多種多様な武具が並んでいた。おそらく魔物によって体の作りが違うためだろう、同じ種類の武器や防具でもさまざまな大きさや形のものがある。
 少し探せば、人間が使えるサイズのものもたくさんあった。

「これは……魔剣か?」

 ふと、目についた剣のひとつを手に取ってみた。
 剣身にはうっすらと青白く発光している魔術紋様が刻まれている。
 たいした魔力が込められているわけではないが、なかなかに質はよさそうだ。

『それは不朽の魔剣ね。魔物の間でよく使われてるやつよ。保護魔術をかけてあるから、手入れなしでも切れ味が落ちにくいらしいわ』

「へぇ、それはいいな」

 本来、剣のような磨かれた刃はすぐに錆びる。
 ちょっと雨に濡れただけでも、放っておけば、その日のうちに錆び始めているぐらいだ。

 だからこそ、頻繁に刀油を塗り替えたり研ぎ直したりと手入れしなければならないが……今の環境だとそうはいってられない。
 互助組合(ギルド)があった時代とは違い、定期的に拠点に戻れる環境ではないのだ。

「とりあえず、この剣を4つもらっていこう」

『4つも?』

「剣は消耗品だ。どうせ魔物と戦えばすぐに折れるし、敵の体に刺しっぱなしにすることも多いからな」

 強敵との接近戦になったときに、剣をいちいち抜いている余裕はないのだ。
 刺さった剣を抜くのはけっこう大変だし、魔物は急所を刺しても平気で反撃してくるやつが多いからな。
 素人冒険者が剣1本だけ持って狩りに出たあげくに、剣を抜くのに手間取って殺されるのはよくある話だった。

「ふむ……」

 いくつか試しに剣を握って、軽く素振りしてみる。

『なにか違うの? どれも同じ剣じゃない』

「いや、剣を見るうえで重要なのは持ち手部分だ」

『持ち手?』

「剣の扱いやすさに直結するのが持ち手だ。いくら剣身がよくても、握りにくければそれだけで剣の威力も技の冴えも格段に落ちる」

 剣身はよほど粗悪なものじゃないかぎりは、“物質強化(ミ・ベルク)”の魔法で強靭化すれば使うことができるが。
 しかし、持ち手部分はそうもいかない。

 とくに柄が握りにくいのは致命的だ。
 戦闘中は血や汗で手が滑りやすいので、うまく握れないと剣がすっぽ抜けてしまうことが多い。

 それに粗悪な剣の柄は、戦闘の衝撃ですぐに壊れてしまう。
 いくら剣身がよくても、柄が壊れてしまえば、ほとんど使い物にならなくなる。
 ……と、そんなことをフィーコに語ったのだが。

『これっぽっちも興味ないわ。わたし、武器なんて軟弱なものは使わないもの』

 退屈そうなあくびで一蹴された。

『それより、食べ物を見に行きましょう? 人肉の瓶詰めとかあればいいんだけど……』

「それを俺の体で食うつもりか」

『冗談よ。わたしはグルメなの。若くて綺麗で新鮮なメスの肉しか食べないわ』

「でも、俺のことは食おうとしてただろ」

『あれは……あなたから美味しそうな匂いがしたから、つい……』

 俺に顔を寄せて、すんすんと鼻を鳴らす。

『うーん……前より美味しそうな匂いになってるわね。レベルが高いほうが肉質もいいのかしら? もっとレベルが上がったあなたを食べるのが楽しみだわ』

「言ってろ」

 ともかく、装備を整え終わる。
 剣は左右に2振りずつ腰にさげ、他にもナイフをいくつかもらっておく。

 食料や道具類もそろえ、最後に荷物袋や装備の隙間に、防音や擦れ防止のための布切れをつめれば準備完了だ。
 補給がほとんどできない環境のため荷物は多めだが、レベルが上がったおかげで、これぐらいの重量なら難なく運ぶことができる。

「よし、一気に戦力アップだ。お前の情報のおかげだな」

『……ふぇっ!?』

 なんか、びっくりされた。

『な、ななな、なによ、突然。そ、そんなこと言っても、わたしたちは敵同士なんだからね! 勘違いしないでよね!』

「…………」

 誇り高き不死鳥、チョロかった。
 そんなことより、これで物資も手に入ったな。
 これでようやく、まともに冒険をすることができる。

「それじゃあ、行くとするか」

 こうして、俺は人狼の城を後にしたのだった。