再会した不死鳥のフィフィと、敵同士なごやかな自己紹介タイムも終わったところで。
「で、話ってなんだ? 自己紹介をしに来たわけじゃないんだろ?」
ふたたび本題に戻る。
『そうね。話っていうのは、端的に言うと――“確認”と“警告”と“提案”よ』
「“確認”と“警告”と“提案”?」
『そもそも、あなた……ずいぶんとのん気に見えるけど、“魔物に反逆する”というのがどういうことか理解しているのかしら?』
「まあ、だいたいはな。魔物に反逆すれば、“魔物全体“を敵に回すことは予想している」
前世では、オーガを殺すということは、オーガの一集落を敵に回すことしか意味していなかったが。
しかし、この時代では違う。
「もともとオーガに人間の管理を任せた上位者がいると思っていたが……お前が“魔界七公爵”という階級を名乗ったことからしても、魔物は種族を超えた“魔界”という王国を作ってるんだろうな。とすれば、俺はオーガという地方役人を殺したことで、その国に宣戦布告したようなものだ」
『……今まで檻の中で生きてきたのに、よくそこまで考えつくわね。やっぱり、あなたは不思議だわ』
フィーコは興味深そうに俺を眺める。
(……まあ、俺には前世の記憶があるからな)
他の人間たちのように魔物の支配下での記憶しかなかったら、外の世界がどうなっているかなんて思いをめぐらせることすらなかっただろう。
とはいえ、前世のことをフィーコに教えるつもりはないが。
『まあ、でも……50点ってところかしら。あなたはもっと大事なことがわかっていないわ』
「は?」
『あなたは――“王”を敵に回した』
フィーコの顔が一転して、真剣なものになる。
「……“王”?」
『そう……今、この世界を支配しているのが“王”と呼ばれている魔物よ。“王”はその力によって全種族の魔物をまとめ上げ、さらには今の人間の管理体制を築き上げたの』
「そんなに強いのか、その“王”とやらは?」
『……強いわ。レベル70や80の魔物たちですら、大人しく“王”にひざまずいているほどに、ね』
「…………」
レベル70~80といえば、世界でも最上位の存在だ。
不死鳥のようにでたらめな天恵を持っている魔物しかいないし、中には神格持ちすらいる。
そんな高レベルの魔物たち全てに、簡単に勝利できるはずがない。
ましてや、生かしたままひざまずかせることなど……。
『あなたは、その“王”に喧嘩を売ったの。それは“魔物の国を敵に回した”なんて可愛げのあるものではないわ。あなたは“王”が支配しているこの世界の全てを、たった1人で敵に回した……もちろん、あなたの敵の中には、“人間”も含まれているわ。あなたはもう、この世界のどこに逃げようと、まともに生きられないと思いなさい』
「……もう、まともに生きられないだと?」
思わず笑ってしまう。
『なにがおかしいの?』
「なぁ、お前は……俺が今まで、まともに生きてきたとでも思っているのか? それとも、“王”とやらの家畜になれば、まともに生きていることになるのか?」
魔物の家畜であるかぎり、人間はただ食われるのを待つだけの生き方しかできない。
そんな生き方から自由になるためなら、誰を敵に回そうが関係ない。
「それに、“王”がどれだけ強かろうが、最初から俺のやることは変わらない。いや、もっとシンプルになったとも言えるな」
『ふぇ?』
この世は、食うか食われるかだ。
強いやつが食って、弱いやつが食われる。
食わなきゃ、食われる――それがこの世界のルール。
もし自由に生きたいなら、食う側に回るしかない。
だからこそ。
「俺はこれからレベルアップして最強へと至る。そして――“王”を討伐して、人類を解放する」
俺の自由のために。友人との約束のために。
きっと、それこそが……次の冒険の道標となるだろう。
『……“王”を殺す、ね』
フィーコが顔から、すっと感情が抜け落ちた。
『ねぇ、あなた……わたしの話を聞いていたのかしら? それとも知能がないのかしら? あなたは今――最弱が最強を殺すって言ったのよ?』
「ああ、そうだ」
『たった1匹の家畜が、世界に反逆するとでも言うの?』
「それでなにも間違ってない」
『たとえ、犬死するだけだとしても?』
「べつに、俺は生きるために生きてるんじゃない」
俺は挑むように笑ってやる。
「上手に生きるなんてクソ食らえ。自分の生き方に殺されるなら本望だ」
『…………』
フィーコはしばらく、うつむいて肩を震わせたあと。
がばっ、と顔を上げた。
『――そうこなくっちゃ!』
いきなり明るく弾んだような声を出した。
『ふふ……あなたは、本当に面白いわ! どこまでも、どこまでも、どこまでも……わたしの期待を裏切ってくれる!』
「いや、期待を裏切られてうれしいのか?」
『当然でしょう? 想定外こそが、わたしの生きがいよ。わたしの期待程度に収まるような人間なら、食べてしまったほうがマシだわ』
よくわからないが、俺の答えがお気に召したらしい。
「で、なんだ? そんなことを伝えるために、海底からわざわざ出張してきたのか?」
『いいえ、言ったでしょう? わたしがしたいのは“確認”と“警告”、そして――“提案”だって』
「そういえば、そんなことも言ってたな」
『ちょっと予想とは違う流れになったけど……わたしが提案したいことは変わらないわ。今のままでは、あなたは確実に死ぬ。でも、それじゃつまらないでしょう? あなたには、もっともーっと、わたしを楽しませる義務があるもの。だから……』
フィーコはこちらへと手を差し伸べてきた。
『――このわたしが、“王”殺しに協力してあげてもいいわよ?』
「で、話ってなんだ? 自己紹介をしに来たわけじゃないんだろ?」
ふたたび本題に戻る。
『そうね。話っていうのは、端的に言うと――“確認”と“警告”と“提案”よ』
「“確認”と“警告”と“提案”?」
『そもそも、あなた……ずいぶんとのん気に見えるけど、“魔物に反逆する”というのがどういうことか理解しているのかしら?』
「まあ、だいたいはな。魔物に反逆すれば、“魔物全体“を敵に回すことは予想している」
前世では、オーガを殺すということは、オーガの一集落を敵に回すことしか意味していなかったが。
しかし、この時代では違う。
「もともとオーガに人間の管理を任せた上位者がいると思っていたが……お前が“魔界七公爵”という階級を名乗ったことからしても、魔物は種族を超えた“魔界”という王国を作ってるんだろうな。とすれば、俺はオーガという地方役人を殺したことで、その国に宣戦布告したようなものだ」
『……今まで檻の中で生きてきたのに、よくそこまで考えつくわね。やっぱり、あなたは不思議だわ』
フィーコは興味深そうに俺を眺める。
(……まあ、俺には前世の記憶があるからな)
他の人間たちのように魔物の支配下での記憶しかなかったら、外の世界がどうなっているかなんて思いをめぐらせることすらなかっただろう。
とはいえ、前世のことをフィーコに教えるつもりはないが。
『まあ、でも……50点ってところかしら。あなたはもっと大事なことがわかっていないわ』
「は?」
『あなたは――“王”を敵に回した』
フィーコの顔が一転して、真剣なものになる。
「……“王”?」
『そう……今、この世界を支配しているのが“王”と呼ばれている魔物よ。“王”はその力によって全種族の魔物をまとめ上げ、さらには今の人間の管理体制を築き上げたの』
「そんなに強いのか、その“王”とやらは?」
『……強いわ。レベル70や80の魔物たちですら、大人しく“王”にひざまずいているほどに、ね』
「…………」
レベル70~80といえば、世界でも最上位の存在だ。
不死鳥のようにでたらめな天恵を持っている魔物しかいないし、中には神格持ちすらいる。
そんな高レベルの魔物たち全てに、簡単に勝利できるはずがない。
ましてや、生かしたままひざまずかせることなど……。
『あなたは、その“王”に喧嘩を売ったの。それは“魔物の国を敵に回した”なんて可愛げのあるものではないわ。あなたは“王”が支配しているこの世界の全てを、たった1人で敵に回した……もちろん、あなたの敵の中には、“人間”も含まれているわ。あなたはもう、この世界のどこに逃げようと、まともに生きられないと思いなさい』
「……もう、まともに生きられないだと?」
思わず笑ってしまう。
『なにがおかしいの?』
「なぁ、お前は……俺が今まで、まともに生きてきたとでも思っているのか? それとも、“王”とやらの家畜になれば、まともに生きていることになるのか?」
魔物の家畜であるかぎり、人間はただ食われるのを待つだけの生き方しかできない。
そんな生き方から自由になるためなら、誰を敵に回そうが関係ない。
「それに、“王”がどれだけ強かろうが、最初から俺のやることは変わらない。いや、もっとシンプルになったとも言えるな」
『ふぇ?』
この世は、食うか食われるかだ。
強いやつが食って、弱いやつが食われる。
食わなきゃ、食われる――それがこの世界のルール。
もし自由に生きたいなら、食う側に回るしかない。
だからこそ。
「俺はこれからレベルアップして最強へと至る。そして――“王”を討伐して、人類を解放する」
俺の自由のために。友人との約束のために。
きっと、それこそが……次の冒険の道標となるだろう。
『……“王”を殺す、ね』
フィーコが顔から、すっと感情が抜け落ちた。
『ねぇ、あなた……わたしの話を聞いていたのかしら? それとも知能がないのかしら? あなたは今――最弱が最強を殺すって言ったのよ?』
「ああ、そうだ」
『たった1匹の家畜が、世界に反逆するとでも言うの?』
「それでなにも間違ってない」
『たとえ、犬死するだけだとしても?』
「べつに、俺は生きるために生きてるんじゃない」
俺は挑むように笑ってやる。
「上手に生きるなんてクソ食らえ。自分の生き方に殺されるなら本望だ」
『…………』
フィーコはしばらく、うつむいて肩を震わせたあと。
がばっ、と顔を上げた。
『――そうこなくっちゃ!』
いきなり明るく弾んだような声を出した。
『ふふ……あなたは、本当に面白いわ! どこまでも、どこまでも、どこまでも……わたしの期待を裏切ってくれる!』
「いや、期待を裏切られてうれしいのか?」
『当然でしょう? 想定外こそが、わたしの生きがいよ。わたしの期待程度に収まるような人間なら、食べてしまったほうがマシだわ』
よくわからないが、俺の答えがお気に召したらしい。
「で、なんだ? そんなことを伝えるために、海底からわざわざ出張してきたのか?」
『いいえ、言ったでしょう? わたしがしたいのは“確認”と“警告”、そして――“提案”だって』
「そういえば、そんなことも言ってたな」
『ちょっと予想とは違う流れになったけど……わたしが提案したいことは変わらないわ。今のままでは、あなたは確実に死ぬ。でも、それじゃつまらないでしょう? あなたには、もっともーっと、わたしを楽しませる義務があるもの。だから……』
フィーコはこちらへと手を差し伸べてきた。
『――このわたしが、“王”殺しに協力してあげてもいいわよ?』