──今日も私は偽りの自分を演じている──
「この前のデートどうだったのー?」
「どうって言われても……」
「手は!?手は繋いだ!?」
「繋いでないよ」
「えー!繋いでないのー!?でもまだ付き合って三日だもんね!まだ早いか!」
「良いなー、早紀には彼氏が居てー。彼氏が居たらきっと私も毎日が楽しいんだろうなー」
昼休み。クラスメイトの女子二人とそんな話をしているのは、私の親友である早紀だ。
(止めて……私の前でそんな話をしないで……)
なんてこと、言えるわけがない。そんなことを言ってしまったら、楽しい雰囲気に水を差してしまうし、何よりも私が彼のことを好きということが早紀にばれてしまう。
早紀とは小学校からの付き合いで、現在高校二年生まで一度もクラスが離れたことは無い。何をする時も私たちは一緒で、同級生からは前世がラブラブなカップルだったんじゃないかと言われるほど仲が良い。
だから私は早紀との関係を崩したくない。その為にも、私は偽りの自分を演じることに徹しているのだ。
早紀に彼氏ができたのはおそらく三日前だ。相手は、同じクラスの中崎海人。クラスの人気者で、女子生徒からも評判の良い彼は、私の幼なじみで初恋の相手である。
家が隣同士ということで家族同士の付き合いもあり、私と海人は赤ちゃんの頃から一緒に育ってきた。
最初は兄弟のような存在だと思っていたが、年を重ねるにつれて彼の優しさにどんどん惹かれていき、いつしか異性として意識するようになっていた。
小学校に入学してからは私と海人と早紀の三人で遊ぶことが増え、海人と二人になる時間は自然と減っていった。でも、そんなことは気にならないくらい、三人で過ごす時間は充実していてあっという間に小学校を卒業した。
私が二人に違和感を持ち始めたのは、中学校に入学して直ぐのことだった。あの時のことは今でも鮮明に覚えている。
その日私が図書室に本を返しに行くと、早紀と海人が二人で話しているのを見つけた。そして、私が来ていることに気付くと、二人は本棚の陰に隠れたのだ。私が二人を見つけたのは図書室からかなり遠いところだったので、私にはばれてないと思ったのだろう。
私はショックだった。まさか二人が私の知らないところでこそこそ会っていたなんて……その後のことはよく覚えていない。
それから二人は、私に気付かれないようにコンタクトを取ることが増えた。私は一切気付いてないふりをした。
思い切って海人に想いを伝えてみようかと思ったりもしたが、大好きな早紀のことを考えると私は何もできなかった。
その頃からだろうか。私が偽りの自分を演じるようになったのは。
そして先日、二人は付き合うことになった。
海人にしつこく付き纏っていた女子生徒のストーカー行為を防ぐために、海人が早紀に彼女のふりをして欲しいと頼んだのがきっかけだった。
そのことを知っていたのは私だけで、学校では二人が付き合ってるという噂が一気に広がった。
早紀に彼女のふりをしてもらうと聞いた時、私の心の奥底にあった希望の光が消えた気がした。はっきりと言われるまではまだ諦める必要はないと思っていたのだが、海人は私か早紀かの選択肢で早紀を選んだ。
つまりはそういうことなのだろう。
そういう事があって、今に至るというわけである。
二人が付き合い始めたからって、私たちの関係が変わったりはしない。心の奥底に芽生える黒い気持ちを押し殺して、今日も私は早紀の話を聞くのだ。
どうやら二人は昨日、都内のショッピングモールに行ったらしい。その時のことを話す早紀の様子を、私は笑顔で見ることしか出来なかった。
たとえそれが、偽りの笑顔だったとしても。
「真美は今日誕生日パーティーするの?」
「両親が忙しいからしないかな」
「そっかー」
休み時間、私と早紀が二人で話していると、海人がこちらに向かってきた。
「なあ、真美……」
「ちょっと私トイレ行ってくるね!」
「え、待って!真美!!」
私は海人を見て真っ先に席を離れた。海人は早紀に用があって来たのだろう。でもあの二人のことだ、私が居たらいつものように二人で話すことは出来ないだろう。
それに、あの二人を見て私は演じきれる自信がない。だから真っ先に逃げて来たのだ。
(それにしても、海人が早紀じゃなくて私の名前を呼んだように聞こえてしまうなんて……私も重症ね……)
放課後。早紀と帰る約束をしていたので、私は靴箱の前で彼女が来るのを待っていた。
誰かの足音が聞こえる……早紀が来たのだろうか。
しかし、そこに現れたのは早紀ではなく、
「海人……何してんの?あ!早紀ならまだだよ?私、用事思い出したから先帰るね!それじゃあまた明日!」
私は慌てて靴を履いて逃げようとしが、海人に腕をつかまれたことで私は動けなくなってしまった。
「待ってくれ!俺は真美に用事があるんだ!」
「駄目だよ海人。早紀が悲しんじゃう」
喜んじゃ駄目。私は演じきらないといけないんだから。
「違うんだ!俺と早紀は付き合ってないんだよ!」
「えっ?」
(海人と早紀が付き合ってない?だって、二人は両思いで、昨日もデートして、海人はいったい何を言っているの?)
私は驚きと困惑で何が何だか分からなくなった。
「海人。何を言っているの?」
「だから説明したろ?早紀には彼女のふりをして貰うって。ふりなんだから、ほんとに付きあってるわけじゃねーよ」
少しづつ、私の頭の中が整理されていく。
「じゃあ!二人でショッピングモールに行ってたのは??」
「あー、知ってたのか……あれはプレゼント選びに付き合って貰ってたんだよ」
私の頭が完全に意味を理解したとき、海人は一つの箱を差し出した。
「これやるよ、誕生日プレゼント」
箱を開けると、中には私がずっと欲しかったイヤリングが入っていた。
「これを買うために、早紀とショッピングモールに行ってたの?」
「そうだよ。ほら、お前が一番欲しいものを知っているのはやっぱ早紀だろ?」
「何で……誕生日プレゼントなんて、これまで一回もくれたことなかったのに」
「今年は覚悟決めてたんだよ」
「覚悟?」
「ああ、お前の誕生日に告白するってな」
私はまだ、今起きていることが信じられなかった。そんなわけないと思ってたのに、期待しちゃ駄目って思ってたのに。
「告白って……じゃあ何で、あの時早紀を選んだの?早紀のことが好きだったから早紀を選んだんじゃないの?」
「逆だよ。あんな事……好きな奴に頼めるわけねーだろ」
そう言って海人は頭を下げ、右腕を差し出した。
「真美……俺はお前が好きだ。俺と……付き合ってくれ!!」
ずっと私は勘違いしていた。私は偽りの自分を演じる必要なんてなかったのだ。
これからは、もう何も演じなくて良いと思うと自然と涙が出てきた。でもそれは決して悲しみから流れた涙ではなく、幸せで溢れた温かい涙だった。
「私も!海人が大好き!!」
そして私は海人の右手を握った。すると海人にぐいっと引っ張られて、強く抱きしめられた。
「ちょっと海人?ここ学校だよ?誰かに見られたらどうすんの!」
「ああ、ごめん。つい、な」
「もうっ!」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
手を繋いで帰る二人を見て私は、真美良かったねと笑顔になる。でもそれは、偽りの笑顔。
真美と海人が両思いなのは知っていた。真美は見ていたら分かるし、海人からはよく真美のことで相談されていた。
真美には内緒で海人と会って相談を聞いた時も、三人でいる時こそこそとコンタクトを取っていた時も、海人の彼女のふりをした時も、この前のショッピングモールでも、私は偽りの自分を演じていた。
これからもきっと、私の初恋が実ることは無い。
大好きな二人と楽しい時を過ごして……
──私は偽りの自分を演じ続けるのだ──
「この前のデートどうだったのー?」
「どうって言われても……」
「手は!?手は繋いだ!?」
「繋いでないよ」
「えー!繋いでないのー!?でもまだ付き合って三日だもんね!まだ早いか!」
「良いなー、早紀には彼氏が居てー。彼氏が居たらきっと私も毎日が楽しいんだろうなー」
昼休み。クラスメイトの女子二人とそんな話をしているのは、私の親友である早紀だ。
(止めて……私の前でそんな話をしないで……)
なんてこと、言えるわけがない。そんなことを言ってしまったら、楽しい雰囲気に水を差してしまうし、何よりも私が彼のことを好きということが早紀にばれてしまう。
早紀とは小学校からの付き合いで、現在高校二年生まで一度もクラスが離れたことは無い。何をする時も私たちは一緒で、同級生からは前世がラブラブなカップルだったんじゃないかと言われるほど仲が良い。
だから私は早紀との関係を崩したくない。その為にも、私は偽りの自分を演じることに徹しているのだ。
早紀に彼氏ができたのはおそらく三日前だ。相手は、同じクラスの中崎海人。クラスの人気者で、女子生徒からも評判の良い彼は、私の幼なじみで初恋の相手である。
家が隣同士ということで家族同士の付き合いもあり、私と海人は赤ちゃんの頃から一緒に育ってきた。
最初は兄弟のような存在だと思っていたが、年を重ねるにつれて彼の優しさにどんどん惹かれていき、いつしか異性として意識するようになっていた。
小学校に入学してからは私と海人と早紀の三人で遊ぶことが増え、海人と二人になる時間は自然と減っていった。でも、そんなことは気にならないくらい、三人で過ごす時間は充実していてあっという間に小学校を卒業した。
私が二人に違和感を持ち始めたのは、中学校に入学して直ぐのことだった。あの時のことは今でも鮮明に覚えている。
その日私が図書室に本を返しに行くと、早紀と海人が二人で話しているのを見つけた。そして、私が来ていることに気付くと、二人は本棚の陰に隠れたのだ。私が二人を見つけたのは図書室からかなり遠いところだったので、私にはばれてないと思ったのだろう。
私はショックだった。まさか二人が私の知らないところでこそこそ会っていたなんて……その後のことはよく覚えていない。
それから二人は、私に気付かれないようにコンタクトを取ることが増えた。私は一切気付いてないふりをした。
思い切って海人に想いを伝えてみようかと思ったりもしたが、大好きな早紀のことを考えると私は何もできなかった。
その頃からだろうか。私が偽りの自分を演じるようになったのは。
そして先日、二人は付き合うことになった。
海人にしつこく付き纏っていた女子生徒のストーカー行為を防ぐために、海人が早紀に彼女のふりをして欲しいと頼んだのがきっかけだった。
そのことを知っていたのは私だけで、学校では二人が付き合ってるという噂が一気に広がった。
早紀に彼女のふりをしてもらうと聞いた時、私の心の奥底にあった希望の光が消えた気がした。はっきりと言われるまではまだ諦める必要はないと思っていたのだが、海人は私か早紀かの選択肢で早紀を選んだ。
つまりはそういうことなのだろう。
そういう事があって、今に至るというわけである。
二人が付き合い始めたからって、私たちの関係が変わったりはしない。心の奥底に芽生える黒い気持ちを押し殺して、今日も私は早紀の話を聞くのだ。
どうやら二人は昨日、都内のショッピングモールに行ったらしい。その時のことを話す早紀の様子を、私は笑顔で見ることしか出来なかった。
たとえそれが、偽りの笑顔だったとしても。
「真美は今日誕生日パーティーするの?」
「両親が忙しいからしないかな」
「そっかー」
休み時間、私と早紀が二人で話していると、海人がこちらに向かってきた。
「なあ、真美……」
「ちょっと私トイレ行ってくるね!」
「え、待って!真美!!」
私は海人を見て真っ先に席を離れた。海人は早紀に用があって来たのだろう。でもあの二人のことだ、私が居たらいつものように二人で話すことは出来ないだろう。
それに、あの二人を見て私は演じきれる自信がない。だから真っ先に逃げて来たのだ。
(それにしても、海人が早紀じゃなくて私の名前を呼んだように聞こえてしまうなんて……私も重症ね……)
放課後。早紀と帰る約束をしていたので、私は靴箱の前で彼女が来るのを待っていた。
誰かの足音が聞こえる……早紀が来たのだろうか。
しかし、そこに現れたのは早紀ではなく、
「海人……何してんの?あ!早紀ならまだだよ?私、用事思い出したから先帰るね!それじゃあまた明日!」
私は慌てて靴を履いて逃げようとしが、海人に腕をつかまれたことで私は動けなくなってしまった。
「待ってくれ!俺は真美に用事があるんだ!」
「駄目だよ海人。早紀が悲しんじゃう」
喜んじゃ駄目。私は演じきらないといけないんだから。
「違うんだ!俺と早紀は付き合ってないんだよ!」
「えっ?」
(海人と早紀が付き合ってない?だって、二人は両思いで、昨日もデートして、海人はいったい何を言っているの?)
私は驚きと困惑で何が何だか分からなくなった。
「海人。何を言っているの?」
「だから説明したろ?早紀には彼女のふりをして貰うって。ふりなんだから、ほんとに付きあってるわけじゃねーよ」
少しづつ、私の頭の中が整理されていく。
「じゃあ!二人でショッピングモールに行ってたのは??」
「あー、知ってたのか……あれはプレゼント選びに付き合って貰ってたんだよ」
私の頭が完全に意味を理解したとき、海人は一つの箱を差し出した。
「これやるよ、誕生日プレゼント」
箱を開けると、中には私がずっと欲しかったイヤリングが入っていた。
「これを買うために、早紀とショッピングモールに行ってたの?」
「そうだよ。ほら、お前が一番欲しいものを知っているのはやっぱ早紀だろ?」
「何で……誕生日プレゼントなんて、これまで一回もくれたことなかったのに」
「今年は覚悟決めてたんだよ」
「覚悟?」
「ああ、お前の誕生日に告白するってな」
私はまだ、今起きていることが信じられなかった。そんなわけないと思ってたのに、期待しちゃ駄目って思ってたのに。
「告白って……じゃあ何で、あの時早紀を選んだの?早紀のことが好きだったから早紀を選んだんじゃないの?」
「逆だよ。あんな事……好きな奴に頼めるわけねーだろ」
そう言って海人は頭を下げ、右腕を差し出した。
「真美……俺はお前が好きだ。俺と……付き合ってくれ!!」
ずっと私は勘違いしていた。私は偽りの自分を演じる必要なんてなかったのだ。
これからは、もう何も演じなくて良いと思うと自然と涙が出てきた。でもそれは決して悲しみから流れた涙ではなく、幸せで溢れた温かい涙だった。
「私も!海人が大好き!!」
そして私は海人の右手を握った。すると海人にぐいっと引っ張られて、強く抱きしめられた。
「ちょっと海人?ここ学校だよ?誰かに見られたらどうすんの!」
「ああ、ごめん。つい、な」
「もうっ!」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
手を繋いで帰る二人を見て私は、真美良かったねと笑顔になる。でもそれは、偽りの笑顔。
真美と海人が両思いなのは知っていた。真美は見ていたら分かるし、海人からはよく真美のことで相談されていた。
真美には内緒で海人と会って相談を聞いた時も、三人でいる時こそこそとコンタクトを取っていた時も、海人の彼女のふりをした時も、この前のショッピングモールでも、私は偽りの自分を演じていた。
これからもきっと、私の初恋が実ることは無い。
大好きな二人と楽しい時を過ごして……
──私は偽りの自分を演じ続けるのだ──