「店長、スマホは見つかりました。さっきの男は……」
もしまだ待っていたら、どうしよう。その可能性に怯えながら訊ねると、佐川店長がこちらを振り向いた。
「少し前までそこにいたんだけど、ようやく諦めてどこかに行ったみたい」
「よかったです」
「もう少し様子見てから店を出ようか。駅まで送るよ」
「いいんですか?」
「もちろん。いつも言ってるけど、夜はひとりで帰っちゃダメだよ。それに、まだ怖いでしょ」
佐川店長が真面目な顔つきで、保護者とか学校の先生みたいな口調でわたしに注意してくる。
本気でわたしのことを心配してくれている店長のことを、今はおせっかいだとも「お父さんみたいだ」とも思わない。
目元を下げて笑う佐川店長の顔や落ち着いた優しい話し方が、いつになくわたしをドキドキさせた。
しばらく待っても男が戻ってこないのを確かめてから、わたしは店長と一緒に店を出た。
駅へと続く道はいつもどおり、街灯に照らされていて明るい。まばらだけれど、わたしたち以外に人通りもある。歩き慣れている道のはずなのに、怖い思いをしたからか、駅までの風景がいつもと違って見える。
常に周囲を警戒していると、たった5分駅まで歩くだけでものすごく神経がすり減った。