「大丈夫。ゆっくりスマホを取っておいで。もしダメだったら、ほかの作戦考えるから」
「わかりました」
小さく頷くと、佐川店長がわたしの目線の高さで笑顔を作って頷き返してくる。
いつのまにか、握り合わせていた手の震えは止まっていた。代わりに、心臓がトクトクと早鐘を打ち始めている。
こんなふうに胸が震えるのは、知らない男に絡まれた恐怖のせいじゃない。目の前にいる佐川店長の、優しい笑顔のせいだ。それに気付いたわたしは、慌てて店長に背を向けた。
「スマホ、取ってきます」
「うん、ゆっくりでいいからね」
佐川店長が背中から声をかけてくれたけど、トクトクと高鳴る心音のせいで、スタッフルームに向かうのがつい速足になってしまう。
店長の言っていたとおり、わたしのスマホはスタッフルームのテーブルに置きっぱなしにしてあった。テーブルの上からそれを取り上げたとき、わたしの心音はまだ、いつもより少しだけ速かった。
スタッフルームまで速足で来てしまったので、スマホを胸の前で両手で握りしめてゆっくりと深呼吸する。時間稼ぎを兼ねて心を落ち着かせてからスタッフルームを出ると、佐川店長がちょうど店の外の様子を窺っているところだった。