バイト先の居酒屋がある駅前は、飲食店が多くて夜でも割と人通りがある。街灯も等間隔に立てられていて、道も明るい。
慣れた道をゆっくりと歩いていると、バイト先の居酒屋の手前で背後に人の気配を感じた。
「ねぇ、ちょっといい?」
低い声に呼び止められて振り返ると、髪色の派手な若い男が笑いかけてきた。と言っても、不自然に引き上げられた唇のせいで一瞬笑っているよう見えただけで、少し高い位置からわたしを見下ろしてくる男の目は少しも笑ってはいない。
感情の読めない表情でわたしのことを舐めるようにじっとりと見てくる男の目が怖かった。顔立ちの綺麗なイケメン風の人だけど、関わらないほうが良さそうな臭いがプンプンと漂っている。
バイト先の居酒屋の入り口までは、あと数メートル。いつでも逃げられるように店の入り口をチラッと見てから後ずさると、男が距離を詰めてきた。
え、怖い。
本格的に恐怖を感じて顔を引き攣らせると、男がニヤリと唇の片端を引き上げる。
「あんたさ、ここのスタッフだよね。ゆーなちゃん?」
語尾上がりで名前を呼ばれて、肯定するかどうか迷った。