佐川店長が奥さんのことをわたしと同じような状況で助けてあげたのだとしたら……。彼女が店長のことを好きにならないわけがない。
もし助けてもらう順番が違えば、わたしにだってチャンスがあったんじゃないか。そう思ってしまうのは、狡いだろうか。
もし、わたしが奥さんよりも先に佐川店長に出会っていたら。不審者から助けられるのが、わたしのほうが先だったら。
店長はわたしに恋愛感情を抱いたかもしれない。
優しく包み込むような笑顔で、わたしだけに笑いかけてくれていたかもしれない。
そんなことを考えたってどうしようもないのに、わたしはやっぱり店長への恋心をうまく捨てられそうになかった。捨てられるどころか、今サオリから聞いた話が未練になった。
このまま店長を好きでいたって、ただ苦しいだけなのに。
どうして、うまくいきようのない相手を好きになってしまうんだろう。
どうして、望みがないとわかっている恋心は簡単には消えてくれないんだろう。
どうして、わたしが先に巡り合うことができなかったんだろう。
恋なんて、いつも矛盾ばかりで、誰かに不平等だ。
《完・スタートラインにも立てない。》