「そういえばさ、店長と奥さんの馴れ初め聞いた?」

 財布の口を開いたままぼんやりとしているところへ、唐突にサオリに話しかけられたからドキッとした。

「馴れ、初め?」

 あまり聞きたくない話だったけれど、過剰反応を示すのも、興味を示さな過ぎるのも不自然だ。
 一応、軽く関心だけは示すフリをすると、サオリが口端を歪めて含み笑いする。

「店長の奥さんって、若い頃に一緒に店で働いてたバイトの女の子だったんだって。その子がバイト帰りに不審者に付き纏われてたところを助けたのが、付き合うキッカケだったらしいよ」

 サオリから聞かされた話に、ドクドクと胸が騒ぐ。

 奥さんが昔、ストーカー被害に遭ったということは佐川店長から聞いていた。
 だけど、彼女が店のバイトスタッフだったということや、彼女をストーカーから助けたことが付き合うキッカケになったということまでは知らなかった。
 そのシチュエーションは、わたしが店長を好きになった瞬間によく似てる。

「店長がわたし達に『纏まって帰れ』とかしつこく言うのって、昔の奥さんのことがあるからなんだって。その話聞いて、なんかニヤけちゃった。店長、すごい愛妻家じゃない?」

 サオリがニヤニヤしながら話していたけれど、彼女の言葉のほとんどが意味を成さずにわたしの耳を素通りしていった。胸がざわざわして、苦しかった。