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 一ヶ月後。スタッフルームで休憩をとっていると、少し遅れて休憩に入ったサオリがカバンを持ってわたしのところに寄ってきた。

「ゆーな、これ」

 サオリがこっそりと渡してきたのは、小さなメッセージカードだった。

「店長に子ども産まれたじゃん? だから、バイトスタッフのみんなでプレゼントとお祝いのメッセージを贈ろうってことになったんだって。メッセージ書けたら、吉田さんに渡してほしいって」
「わかった」

 ズキッと僅かに胸が痛むのを感じながら、何でもないふうにサオリに笑いかける。

「店長が結婚してたなんて、びっくりだよね。子ども産まれたっていうのも。店長、すごい親バカになりそう」

 何も知らないサオリが、にひっと悪戯っぽく笑う。
 何気ないサオリの言葉に、わたしの胸は鈍く痛んだ。

 佐川店長が結婚していたことは、もともと一部の社員とスタッフしか認知していなかったのだけど、店長にお子さんが産まれたことで、それは全スタッフに周知されることとなった。
「心配性のお父さんみたいだ」とバイトスタッフ達から揶揄われているわりに、佐川店長の人望は厚くて。店長に子どもが産まれたことがわかった瞬間に、みんながすぐに「お祝いしよう」という雰囲気になった。
 周囲を自然とそういう気持ちにさせるのが佐川店長のすごいところだ。わたしは今もそんな店長のことが好きだと思う。恋愛感情として。

 サオリから受け取ったメッセージカードを失くさないように財布に入れながら、どんなメッセージを書こうか、と自嘲気味に唇の端を痙攣らせる。
 お祝いしたい気持ちはもちろんあるけれど、内心少し複雑なのだ。