「あの男にはもう付き纏われてはいないんですけど、店長にはちゃんとお礼を言えてなかったので……。ありがとうございました」
「そんなの、気にしなくてもいいのに。もしかして、ゆーなちゃんが俺に話しかけたそうにしてたのってそれが理由?」
「そう、ですね」
本当はなんでもいいから店長とふたりで話したかっただけなのだけど。不自然に思われない理由付けができたら何でもいい。
「律儀にありがとう。他に心配事とかはない?」
「はい、大丈夫です」
「よかった。もしまだ駅までの道が怖かったら、閉店までのシフトのときは俺も送って行けるし。いつでも声かけて」
ははっと笑った店長が、優しい目をしてわたしの顔を覗き込んでくるから、ドキドキと心音が速くなる。「いつでも」と口にした店長の本気度はどれくらいなんだろう。
もし本当に店長が毎回駅まで送ってくれるなら、わたしには、シフト希望を全て閉店までで出すくらいのあざとさがある。それから、わたしだけを特別に思ってもらいたいという願望や期待も。
「店長って、スタッフみんなのことをすごく気にかけてくれてて優しいですよね。みんなは『心配性のお父さんみたい』ってよく笑ってるけど、わたしは面倒見のいい店長のこと、かっこいいと思います」
そんなふうに口にしたのは、他のスタッフたちからひとつ突き抜けてわたしのことを意識してもらいたいと思ったからで。佐川店長がわたしの言葉にどんな反応をするのか確かめたかったから。
だけど、わたしの「かっこいい」という言葉に対する佐川店長の反応は意外にも薄かった。
耳の横を引っ掻いて、恥ずかしがったり照れくさそうな反応を示してくれることを期待したのに、店長は「ありがとう」と穏やかに笑うだけだ。