助けてもらって以来、佐川店長と向き合ってゆっくり話すこともなかったから、急な展開に心の準備が追い付かない。ドキドキしながら僅かに身を引くと、店長のほうも焦ったように後ろに身を引いた。

「あ、ごめん。びっくりさせて」
「いえ」
「それに、強引に引き留めてごめんね。なんとなく、ゆーなちゃんが俺に話したいことでもあるのかなーと思ったから」

 佐川店長が困ったように耳の横を引っ掻く。その仕草は、焦ったり、困ったり、恥ずかしかったり。そういうときの、店長の癖らしい。
 店長はわたしよりもいくつも年上だけど、その癖が可愛いなと微笑ましく思った。
 それに、ゆっくり話したいと思っていたわたしの気持ちが店長に伝わっていたこともすごく嬉しい。頬がじんわりと熱く染まっていくのを感じながら、テーブルの下で両手を握り合わせる。
 この状況でいきなり告白なんてできないし、何か自然な話ができないかな。
 目を伏せてしばらく黙り込んでいると、向かい側の椅子で店長が少し身じろいだ。

「ゆーなちゃん、もしかしてこの前の男にまだ付き纏われたりしてる?」

 佐川店長がわたしを気遣うように問いかけてくる。

「え、っと。それはもう大丈夫です。あの夜、店長が追い払ってくれて以来、見かけてません」
「そっか、それならよかった。ゆーなちゃんがそのことで相談したかったのかなーって思ったから」

 目元を下げて安堵の表情を浮かべる佐川店長に、胸がきゅっとなった。
 店長がわたしを呼び止めたのも、サオリのことをさりげなく先に帰らせたのも、わたしを気にかけてくれてのことだったんだ。そんな優しい気遣いをされたら、店長のことがますます好きになってしまう。