「そういえばゆーなちゃん、シフトの相談があるからって俺のこと待ってくれてたんだよね」
「え?」

 振り向いて目を瞬かせると、佐川店長がスタッフルームのテーブルを指さしながら笑いかけてくる。

「あっちで座って話そうか。サオリちゃん、ゆーなちゃんのことは話が終わったら駅まで送るから。先にみんなで帰ってていいよ」
「そうですか? じゃぁ、店長、ゆーなのことお願いします」
「うん、サオリちゃんたちはちゃんと纏まって駅まで帰ってね。もう遅いから」
「はーい。じゃぁ、またね、ゆーな」

 間延びした返事をしながらわたしに手を振るサオリは、佐川店長の言葉を少しも疑っていないらしい。 
 だけどわたしは、店長の言動に心臓がドキドキして、手足が震えそうだった。

 だって、わたしは店長にシフトの相談なんて持ちかけていない。それなのに、店長がリアルっぽい嘘を吐いたのは、ふたりだけで話したいと思っていたわたしの気持ちが悟られたか、店長のほうがわたしとふたりになりたいと思ってくれたからだ。
 ドキドキしながらスタッフルームのテーブルの椅子を引くと、サオリがいなくなったのを確認してから店長もわたしと向かい合うようにして座る。

 佐川店長とふたりだけになりたいと思っていたのに、いざふたりきりの状況になると、うまく目が合わせられない。
 緊張してテーブルの下でもじもじと手をこすり合わせていると、軽く組んだ両手をテーブルにのせた店長が、わたしのほうに少し身を乗り出してきた。