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「ゆーな、帰らないの?」

 居酒屋で閉店までのシフト勤務を終えてからスタッフルームでもたもたと帰宅準備をしていると、サオリに声をかけられた。

「もうみんな店出るよ。早くしないとまた店長がうるさいよ。『駅までは纏まって帰れー』って」

 サオリがふざけて佐川店長の表情と声を真似るけど、全然似てない。

「ゆーな?」

 無表情なわたしを見て、サオリが怪訝そうに首を傾げる。そのとき、ノックとともに開いたスタッフルームのドアから佐川店長が顔を覗かせた。

「サオリちゃん、ゆーなちゃん。早く帰りな。みんな入口で待ってるよ」
「はーい」

 腰に手をあてて、先生みたいな口調でわたし達を促す佐川店長に、サオリが笑いながら間延びした返事をする。

「行こう、ゆーな」

 サオリが佐川店長と入れ違いにスタッフルームのドアから半分身体を出す。サオリが声をかけてくれたけど、わたしはそのままおとなしく付いて行く気になれなかった。

 ストーカー紛いの男に助けられて以来、わたしはバイト中に店長のことばかりを視線で追うようになってしまった。