「助けてくれてありがとうございます」
わたしがペコリとお辞儀して笑うと、佐川店長が「あー、うん」と、照れ臭そうに耳の横を引っ掻いた。
「別れたあと、なんか胸騒ぎがしたから。戻ってきてよかった。あと、ごめんね。あいつのことを追い払うためとはいえ、『ゆーなちゃんの恋人だ』とか言っちゃって。本当の彼氏に怒られるよな」
「今は、怒るような彼氏はいないです」
敢えて強調するようにそう言うと、佐川店長が意外そうに目を瞬いた。
「そうなんだ? だったらなおさら、変なやつには気を付けないとね。ゆーなちゃん、可愛いし」
可愛い、なんて。どういうつもりだろう。
目元を下げた、佐川店長の優しい笑顔に胸がぎゅっと狭まる。
「遅くなったし、やっぱり家の近くまで送るよ。これからも、もし怖かったらいつでも声かけて。一緒に店を出られるときはなるべく送るから」
目を伏せてうつむくわたしに、佐川店長が優しく声をかけてくれる。
店長は、わたしがまだ怯えているんじゃないかと心配してくれていたのだと思う。
だけどわたしが顔を上げられなくなったのは、店長の笑顔や言葉に尋常じゃないくらいに鼓動が高鳴ってしまったからだった。