「聞かなくてもわかるよ。ゆーなちゃんは僕と付き合ってるから」
「は?」

 男が怪訝に顔を顰めたのと、わたしが店長の背中の陰で目を見開いたのはほぼ同時だった。

「責任者としての問題だけじゃなくて、ゆーなちゃんの恋人としても、君に付き纏われるのは困るんだ。あまりしつこくするなら、警察に報告もできるけど。できればそうしなくて済むように、君のほうから手を引いてもらいたい」

 堂々と説く店長を、男がじっと睨む。しばらく不服そうに店長とわたしのことを見ていた彼が、悔しげに舌打ちをした。

「もし、今後も店の周りをうろつくようだったら、こっちにも考えがあるから」

 店長が釘を刺すようにそう言うと、男はわたし達を睨みながら無言で離れていった。

 今ので、あの男は本当に諦めてくれたんだろうか。怖かった……。
 でも、立ち去ったはずの佐川店長が戻ってきてくれてほっとしたし、わたしを庇ってくれた姿はすごくかっこよかった。
 わたしを助けるためだってわかってるけど、店長が彼氏のフリをしてくれたことも嬉しかった。

 男の姿が完全に見えなくなったあとも、佐川店長の大きな手がわたしを守るように肩に軽く乗せられたままでいる。そのことにドキドキしながら上目遣いに見ると、店長がハッとしてわたしの肩から手を退けた。

「あー、ごめん。変なつもりで触ったわけじゃないから」

 セクハラでも気にしてるのか、佐川店長があたふたとしている。
 別に、店長にだったら変なつもりで触られてもいいんだけどな。そんなふうに思うわたしはおかしいだろうか。