「すみません。彼女から手を離してもらえますか?」
強い口調でそう言って、わたしを男から引き離してくれたのは、さっき別れたはずの佐川店長だった。
「てんちょ、……」
「あんた、あの居酒屋の店長じゃん。今オレがゆーなちゃんと話してるから、邪魔しないでよ」
男が不機嫌そうな声で、間に立った佐川店長を押し退けようとする。だけど店長は、わたしを背中に守ったままびくとも動かなかった。
「君は、ゆーなちゃんの知り合いで何でもないんだよね? もし君がゆーなちゃんに付き纏ってるのだとしたら、僕は責任者として従業員の安全を確保する必要があるんだけど」
「うるせーな。これから知り合いになろうとしてたんじゃん。あんたはその責任者だからっていう理由で、オレとゆーなちゃんの仲を邪魔すんの?」
「ゆーなちゃんが君と親しくなりたいと思ってるなら邪魔はしないけど、そうじゃないでしょ?」
「そんなの、ゆーなに聞いてみないとわかんねぇじゃん。なぁ?」
佐川店長の横からニヤリと笑いかけてくる男はしつこくて、なかなか立ち去ってくれそうもない。
どうしてこんなにもわたしに執着してくるのかわからないけど、男がしつこく絡んでくればくるほど、彼に対する恐怖心や嫌悪感は強くなっていった。
緊張と不安がわたしの中の許容量を超えてしまい、つい、佐川店長のTシャツの裾を縋るように引っ張ってしまう。そんな小さなサインに気が付いた店長が、肩越しにわたしを振り返る。
店長のTシャツを握り締めながら事が丸く収まることだけを願って震えていると、店長が突然わたしの肩を引き寄せてきた。