そんな横柄な態度に気を悪くした様子もなく、彼はアルコールランプに火をつけ、サイフォンのフラスコを温めはじめた。

 しばらくすると沸騰した湯が急上昇してロートを満たす。
 彼はすかさず竹ベラを手にとって、素早く攪拌(かくはん)する。

 なんだか、手慣れている。

 わたしの予想に反して、彼の動きにはまったく(よど)みがなかった。
 いや、それどころか、とても巧みだった。

「どうぞ」
 カウンターに置かれたコーヒーの芳香が湯気とともに鼻孔をくすぐる。
「いただきます」
 一口飲んで驚いた。
 何これ、あんまり苦くない。
 コーヒーなのに。

「……美味しい」
「合格点もらえたかな?」
 わたしの魂胆なんて、とっくにお見通しだったようだ。
 
 しゃくに障ったけれど仕方ない。
 わたしは顔をあげ、その人の目を見て頷いた。
 すると彼は、目を細めて嬉しそうに笑った。