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 ただ愛することが罪だという……
 その苦しみを彼がひとりで背負いつづけたくれたおかげで、わたしはこうして我が子をこの手に抱くことができた……

 光輝を抱きしめながら、シド兄の想いの深さを心の底から理解した。

 彼の声が蘇る。
「この世の果て……この世とあの世の境目か。すべての境界が消え失せる場所なんじゃないかな」

 いつの日か。
 わたしがこの世での生を全うしたとき。
 そのときはこの世の果てに向かおう。

 境界が存在しない場所へ。
 罪を犯さず、わたしたちが愛を育める場所へ。
 きっとそれまで、彼は待っていてくれる。
 優しい微笑みでわたしを迎えてくれる。

 わたしは光輝に微笑みかけ、柔らかなその手をにぎると、ふたりでキッチンへと向かった。(完)