獅童はとても悩んだ。
  当たり前よね。
  そして、さんざん悩んだあげく
 「おれと彼女がふたりにならないように
  一緒にいて欲しい」とわたしに頼んで
  きたの。
 「ひとりじゃ何をしてしまうかわからな
  いから、自分を監視してほしい」と。
  それから大晦日ライブの前に
 「彼女を諦めさせるために、恋人のふり
  をしてほしい」とも言っていた。
 「好きな相手を愛せない苦しみより、
  不実な男に裏切られた苦しみのほうが
  はるかにましだ」と。
 「裏切られたと思えば、時間さえ経てば
  エイミーはかならず前に進める」と。
  あなたがうらやましかったわよ。
  そんなにも獅堂に想われているあなた
  が。
  正直に言うわ。そうやって過ごしてい
  るうちに、わたしも獅堂に惹かれてい
  たから。婚約破棄で心も弱ってたしね。
 
  だから、あのときのキスは本心から。
  でも、一度だって彼の心がわたしに向く
  ことはなかった。
  いつでも、あなたを求めていた。
  けっして手に入らないとわかっていた
  のに。