あのときは、いくら歳月を重ねたって、ずたぼろに傷ついた心の痛みは癒える訳がないと思っていた。

 でも、あれからもう20年。

 二度と恋はしないと思っていたわたしも、今は結婚して、ふたりの息子に恵まれた。
 夫は会社の同僚。
 付き合う気はないと何度も断ったのに、諦めずにプロポーズし続けてくれた人だった。
 
 だから、こうしてシド兄の遺影を目にしても、一生会いたくないと思っていた沙奈絵ちゃんを前にしても、自分でも意外なほど平常心でいられた。
 
 わたしが38歳だから、彼女は46歳か。
 それなりに年を重ねていたけれど、喪服に身を包んだ姿はやはり美しかった。

「江海ちゃん、ありがとう。来てくれて」
 焼香を終えたわたしに、彼女は声をかけた。
「このたびはご愁傷様でした」
 わたしは型通りの挨拶だけ返して、そのまま斎場を後にした。
 それ以上、話すことはなかったから。