水底で溺れたように、うまく息が吸えないわたしを取り残して、カウントダウンがにぎやかに始まった。
 
 5,4,3,2,1……
「ハッピー・ニュー・イヤー!!!」
 父の音頭でお客さん、スタッフ、演奏者全員が一斉にクラッカーを鳴らした。

 部屋中が爆音で満ち、それに負けないほどの歓声がわく。
 全員立ちあがって、隣にいる人たちと握手をしたり、ハグをしたり……

 その人並みの向こうで。
 わたしは、恐れていたことが現実になったことを知った。
 
 沙奈絵ちゃんがシド兄に前に立ち、彼の首に腕を回した。
 そして……
 その唇を奪った。

 思わず目をそらしていた。
 心拍数が急激に上昇し、耳の奥で脈が激しく打った。
 そして、まるでストップモーションのように、人の声や食器が触れ合う音、何もかもが聞こえなくなった。

 でも、なんでもないはず。
 シド兄はすぐに彼女を引き離すはずだ。
 そう、単なる挨拶のキスだ。
 そうして、わたしのところに来てくれるはず。

 祈るような気持ちで、わたしはもう一度彼らに目を向けた。

 そして、その場に(くずお)れそうになった。

 シド兄は彼女の腰に手を回し、しっかりと抱き寄せていた。
 そして、ふたりはステージの片隅で、口づけを交しつづけていた。