「式場も予約してたし、新婚旅行先も決めてたのに。最悪でしょう。こんなことってある?」
 でも、みんなの前で感情を爆発させてすっきりしたらしい。
 沙奈絵ちゃんは意外とさっぱりした表情になって「まあ、結婚してから気づくよりはましだったかな」 
 そう言って、「あーあ」と大きな声を出して、伸びをした。

「あのさ、今日電話したのは、年末のライブに出てほしいって話だったんだけど」
 父が遠慮気味に切り出した。
「ライブ?」
「ああ、例の大晦日の。木村のカルテットに水田くんも加わるんだけど、キーボードも欲しいなって話になって」

 沙奈絵ちゃんはちらっとカウンターの向こうのシド兄に目をやった。
 それから言った。
「いいよ。出る。家に閉じこもってても仕方ないし」
 木村さんが沙奈絵ちゃんの向かいの席に腰を下ろした。
「そうそう、そんなクズのことはさっさと忘れちゃいな」