その年越しライブには、うちの店のレギュラーである父の友人たち、トランペットの菅井さん、サックスの木村さん、ベースの滝さん、そしてドラムの玄さんのカルテットも出演する。
 師匠である木村さんの提案で、今年はシド兄もテナーで加わることになった。

「バランス的にキーボードも欲しいな」
「じゃあ、さーちゃんにお願いしよう。ああ、でも結婚の準備で忙しいかな」
 父はその場で、沙奈絵ちゃんに電話をかけた。

 彼女は音楽教室でクラシックピアノを教えていたけれど、学生時代、友人とフュージョン系のバンドを組んでいたので、ジャズピアノも得意だった。

「今から来るってさ」
「やってくれるって言ってた?」
 わたしが尋ねると、父は首をひねった。

「いや、何か取り乱しててさ。さーちゃん。叔父さんに聞いてほしいことがあるって言って、一方的に電話切っちまった」