「はい」
 彼はポットからアツアツのコーヒーをカップに注いでくれた。
 両手でカップを持ち、ふーっと湯気を吹いて、一口飲むと、一瞬だけ寒さを忘れる。
 ちゃんとシド兄のコーヒーの味がする。
 しかも寒空の下だから、余計に美味しく感じる。

 でも、やっぱり寒い。
 あらかじめ言われていたので、防寒対策はばっちりしてきたつもりだけど、11月の深夜の寒さをなめていた。
 マフラーのほんのわずかな隙間から、冷気が忍び込んでくる。

 「寒い?」
 シド兄がわたしの顔を見て、訊いた。
「ちょっとだけ」
 答える声が少し震えた。
 彼は自分が巻いていたマフラーを外すと、わたしにかけてくれた。
 そして、そのまま、わたしの肩を抱き寄せた。

 触れあった箇所から、彼の体温とともに優しさが伝わってくる。
 心臓が飛びだすんじゃないかと思うほど高鳴った。
 そして、なぜかわからないけれど、涙が出そうになった。
 
「シド兄」
「うん?」
 もう、こらえきれなかった。
「好き」
 少しの沈黙の後、シド兄は言った。
「おれも」
 
 肩に添えられていた彼の手に力がこもる。 
「エイミー……」
 囁かれ、わたしは目を閉じた。

 そっと重ねられた唇から、ほのかにコーヒーが香った。