わたしは鞄の持ち手を握りしめ、もう一方の手で傘を持つと、彼のほうを向いた。
 送ってもらったお礼を言おうと。
 でもわたしより先に、シド兄が話しはじめた。
「そういえばもうすぐだっけ。誕生日」
「えっ、なんで知ってるの?」
「いや、前にさそり座って言ってたから」

 嘘! そんな話、覚えててくれたんだ。

「うん、11月16日。えっ、シド兄、なんかプレゼントくれるの?」
「ああ、考えとく」
「やった!」
 わたしは思いっきり目を見開いて、子供みたいに喜びをあらわにした。
 そんなわたしを見て、シド兄は目を細めた。
 そして、ふわっと頭を撫で、手をのせたままの恰好で、わたしの目を覗きこんできた。

「忙しいそうだけど、また、ちょくちょく店に来いよ。顔、見られないと寂しいから」
「うん……」

 胸がきゅーっと締めつけられて、倒れそうになった。

 わたしと会えなくて寂しい。
 シド兄が⁉︎

 その言葉がエンドレスで頭のなかを回りつづけている。
 
 それって、シド兄もわたしと同じ気持ちって、解釈していいってことだよね。
  わたしが好きってこと、だよね。

 その夜は、幸せの予感で頭も胸もいっぱいになり、とうとう一睡もできなかった。