雨脚はさらに強くなっていた。

 この豪雨のなかを歩くのも憂鬱だったけど、それよりもシド兄とゆっくり話せなかったことのほうが、わたしを落ち込ませていた。
 せっかく会えるのを楽しみにしてたのに。
 でも大学の話じゃ、仲間に入れないし……
 それにあんなに鼻の下のばしちゃって……
 そりゃ沙奈絵ちゃんは美人だけど。

 とぼとぼと、ほとんど水没している石畳を歩いていると、後ろから肩をたたかれた。
「家まで送るよ」
 シド兄だった。
「門の前に車回すから、ちょっと待ってて」
「ありがと……」
 思わず、顔が(ほころ)んだ。
 ちゃんと気にかけてくれたのが、嬉しくて。
 水没しかけていた気持ちは、あっというまに浮上した。