家に帰り、洗面所で手を洗い、鏡に映った顔を見る。
 シド兄が触れた頬に目を凝らしても、なんの形跡もない。
 表面上はまったく同じ。
 でも、わたしの内部は確実に変化していた。 

 触れられた、と言ってもほんの一瞬。
 でもそこから、わたしの表面を覆っていたラップのような被膜に亀裂が生じ、新たな自分が抜けだした。
 そんな気がした。

 そして、生まれ変わったわたしの胸に、これまで心の底に潜んでいた感情が浮上してきた。

 もっと、触れていてほしい。
 もっと、見つめてほしい。

 その想いは、これまで好意を持った男の子に覚えたものとはまったく異質だった。

 ただ、どきどきするだけではない。
 未知の場所に連れていかれてしまうような、そんな甘美な怖れを伴っていた。