本当にこまった奴だ、という顔して、彼はカウンター越しに手を伸ばしてきた。
 そして、次の瞬間、わたしの頬に優しく触れた。
 ひんやりとした指先で。

 わたしは思わず、上目遣いで彼を見た。
 そわそわした感じが頬から全身に伝わってゆく。
 
 シド兄はわたしの頬をひと撫でして微笑むと、蛇口をひねった。
「洗い物済ませるまで、待ってろ」
「……うん」

 彼の右手がスポンジを泡だてるのを見つめながら、いつものように普通に話そうとしたけれど、言葉が出てこない。
 なんか、わたし、おかしい。

 シド兄は、黙っているわたしに気をとめることなく、溜まっていた食器を洗い続けている。
 時間にすれば、5分足らず。
 でも、とてもとても長く感じた。