「獅堂が亡くなったの」
10年以上音沙汰のない相手からの連絡は、たいてい悲しい知らせだ。
特に30歳も後半になれば。
「いつ?」
「おとといの晩。肝臓ガンで。去年から闘病していて……」
「ごめん、何にも知らなかった」
「口止めされてたから」
受話器の向こうにいるのは、わたしの従姉。
そして、〝獅堂〟というは彼女の夫。
辛く厳しい闘病生活だったんだろう。
彼女の声には修羅場をくぐり抜けた人間しか発することのできない、安堵の響きがかすかに混じっていた。
「行けるかどうかわからないけど……」
葬儀の日時と場所を聞き、電話を切り、深い溜息をひとつ、ついた。
死んじゃったのか、シド兄。
20年前、わたしを傷つけ、去っていった男。
彼の死という事実が上滑りして、うまく、心に沁み込んでいかない。
ようやく思い出すこともなくなってきたのに。
いまさら、古い記憶をこじ開けたくはないけれど……
そう思いながらも、わたしはクローゼットを開け、喪服の用意をはじめた。
***
10年以上音沙汰のない相手からの連絡は、たいてい悲しい知らせだ。
特に30歳も後半になれば。
「いつ?」
「おとといの晩。肝臓ガンで。去年から闘病していて……」
「ごめん、何にも知らなかった」
「口止めされてたから」
受話器の向こうにいるのは、わたしの従姉。
そして、〝獅堂〟というは彼女の夫。
辛く厳しい闘病生活だったんだろう。
彼女の声には修羅場をくぐり抜けた人間しか発することのできない、安堵の響きがかすかに混じっていた。
「行けるかどうかわからないけど……」
葬儀の日時と場所を聞き、電話を切り、深い溜息をひとつ、ついた。
死んじゃったのか、シド兄。
20年前、わたしを傷つけ、去っていった男。
彼の死という事実が上滑りして、うまく、心に沁み込んでいかない。
ようやく思い出すこともなくなってきたのに。
いまさら、古い記憶をこじ開けたくはないけれど……
そう思いながらも、わたしはクローゼットを開け、喪服の用意をはじめた。
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