なにもかもうまくいかなくて、自分のことが嫌になり、現実から逃げ出したかったある日――。一通の手紙に導かれ、たどり着いたのは、箱根にある一軒家のお屋敷。大正時代にタイムスリップしたかのような瀟洒なお屋敷の中には、たくさんの骨董品が並べられていた。

 時を経て流れ着いた骨董品には、もとの持ち主の記憶が残されている。そこには、誰にも気づかれずにいた、様々な想いが宿っていた。

 もしも私のこの力が、誰かを癒やし、幸せにすることができたなら。とても素敵な魔法にだってなりうるのではないだろうか――。

「いらっしゃいませ。お探しもの物でしょうか? それとも、カフェでおくつろぎになりますか?」

 迷い人を案内するため、今日も私は骨董カフェのドアを開く。私をここへ導いてくれた、どこか掴(つか)めない、ミステリアスな彼と、一匹のツンデレな猫と一緒に。