私は……その全てから逃げて来た。なんでもある、なんでも手に入る場所から。


「都会は疲れちゃって、だからお母さんに頼んだんですっ! お母さんの生まれ育った場所で暮らしたいって」

「そうなのね〜! なんもないとこだけど、気に入ってくれたら嬉しいなぁ」


 幸子さんがそう元気よく言う中、居心地が悪くて「ちょっと、外の空気吸って来ます」と言ってからここから抜け出した。

 後ろから美里さんが私の名前を読んだ気がするが、聞こえないフリをして靴を履いた。


「ちょっと、冷えるかも。やっぱり違うなぁ」

「そりゃそうだろ? 都会と田舎じゃ正反対だ」


 え……!? 植木くん?


「母さんたち、あんなだけど悪気はないんだ。だけど、柚葉が聞かれたくないことの一つだったならごめん。謝る」

「……っなんで、植木くんが謝るの? 植木くんは何もしていないのに」

「まぁー……ここは、こういうとこだ」


 どういうことだよ。分からない、全く。


「ここはみんな家族みたいなもんだから遠慮がない。ズカズカ家には入るし、ご飯だって一緒に食べることがあるが……いい人ばっかだ」

「……はぁ」


 今の私には分からないけど……そう思い、ふと上を見る。


「すっごい、綺麗……」

「ここは無駄な光がないから、綺麗に見えるんだよ。東京って夜も明るいんだろ?」

「た、ぶん? でも、星ってこんなに綺麗なんだ……」


 こっちに来て、初めて夜の空を見た。東京の空とは違い、星が降るようにキラキラ輝いていて同じ空なのかと疑うくらいだ。


「柚葉は、ずっとここにいるんだら?」

「……うん」

「なら、ここにいる限りは毎日見られる。俺は戻るけど、ゆっくり来いよ」


 植木くんはそう言って、家の中へと入っていった。私はもう一度星空を見てから家の中に入った。