それから1時間後。


買い物から戻ってきた施設長が門の前に置き去りにされたゆりかごに気がついた。


まさかと思い顔もの袋とその場に落として駆け寄った。


施設長の考えはあたり、ゆりかごの中にはまだ小さな赤ん坊が入っていたのだ。


シーツにくるまれたその子は雨にぬれて冷たくなっていた。


大急ぎで施設の中につれて戻り、服を着替えさせて暖めた。


幸いにも命に別状はなかったが、翌日赤ん坊は高熱を出した。


施設長はその子を抱っこしてあやしながら「大丈夫だからね、彰くん」と呼びかけた。


ゆりかごの中に彰とだけ書かれたメモ用紙が入れられていたのだ。


それが、彰が彰であると認識できる、ただひとつの物証だった。


だから彰は自分の両親の顔も知らず、施設にいる先生がたが自分の親だと信じて生きていくことになった。


どこの家でも見知らぬ他人同士が暮らしていて、沢山の子供がいるものだと思っていた。