☆☆☆

雨の夜。


1人の女がゆりかごを持って建物の前で足を止めた。


その建物には養護施設と書かれている。


女は少し迷った様子を見せた後、ゆりかごを施設の門の前に置いた。


女が立ち上がるとその気配を感じたように赤ん坊が泣き始めた。


その声は雨にかき消されてしまうくらい、とても小さなものだった。


生まれつき体が弱いこの子を女は自分では育てることができないと判断したのだ。


かといってこんな場所に捨てていくなんて心ない人間だと思うかもしれない。


でも、まだ若い女にとって選択肢はそれしかなかった。


相手の男は子供ができたと知ったとたんに家に戻ってこなくなった。


当然婚姻関係でもなく、女は一人で子供を生み、途方にくれる毎日を送っていたのだ。


「ごめんね」


小さな声で最後の別れを告げると、女は逃げるようにその場を後にした。