犯人が覆面を取るとき、それは見られてもいい相手の前だけだ。


それなのに男は覆面を取ろうとしている。


それはつまり……蘭をここから生きて出すつもりはないということだ。


(そんな、嘘でしょう……?)


蘭は自分の命がこの男の手の中にあり、そしてこの男は自分を生かしておくつもりはないのだと理解し、凍りつく。


まるで時間が停止してしまったかのようにゆっくりと過ぎていく。


そして、男は完全に覆面を脱ぎ捨てていた。


黒い布の下から現れたその顔に蘭は大きく目を見開いた。


涙は一瞬にしてひっこみ、体から震えも消えていく。


「え……」


小さく呟いて、そのまま止まってしまった。


覆面の下から出てきた顔があまりにも綺麗で、カッコよくて、キラキラと輝いて見えた。


呼吸も忘れて男の顔を見つめていると、男は片手にカッターナイフを持って刃先を確認しはじめた。


その動作に蘭は我に返った。