「わかったよ。それなら掃き掃除だけ頼む」


彰はそう言うと蘭に背を向けて風呂場へと向かった。


蘭は笑顔でうなづき、彰の部屋のドアを開けた。


途端にムッとした空気が肌をなでる。


長い間換気をしていないような重たい空気だ。


蘭は手初めに窓を開けて換気することにした。


空気を入れ替えるだけでも気分は随分と変わってくるものだ。


しかし、部屋の中は足の踏み場もないくらいに汚れている。


和室みたいにゴミ袋は散乱していないけれど、本やCDなどがあちこちに散らばっている。


きっと本棚が一杯になって、床に積み重ねていたのだろう。


それがそのまま崩れてしまったような形状をしていた。


「よし、ここも少しだけ片付けるか」


呟いたとき、サイドテーブルが視界に入った。


そこにも本やコップなどが置かれたままになっていたが、蘭が見つけたのは彰のスマホだった。


蘭はそっと手を伸ばしスマホを手にした。


ちゃんと充電されているようで使える状態になっている。


しかし当然ながら暗証番号や指紋認証が必要になっていて、ロックを解除することはできなかった。


このスマホは使うことができない。


そうわかった瞬間、なぜだか安堵している自分がいた。