自分の服は一着しかないから匂いが気になったけれど、仕方がない。


手早くジーパンとTシャツ、それに上着を羽織って和室から出た。


そのタイミングで着替えてきた彰が部屋から出てくる。


しかし、髪の毛に寝癖がついたままだ。


さすがにそのまま外に出るのはどうかと思い、蘭は洗面所へ行くことを彰に促した。


「なんだよこれ。すげーはねてる」


鏡を確認した彰は舌打ちして手で寝癖を撫で付けた。


しかし、簡単には直らなくて水をつけてクシでとかして、ようやく収まった。


「よし、じゃあ行くか」


「はい。あの、マスクとかありますか?」


「あるけど?」


どうしてマスクなんてつけるんだ?


そんな疑問が浮かんできたが、すぐに理解した。


彰は誘拐犯で、蘭は誘拐の被害者だ。


顔をさらして歩くわけには行かない。


彰は納得して大き目のマスクと蘭に差し出した。


自分はいつも使っている黒いキャップを深くかぶった。