朝から彰に挨拶してもらえるなんて蘭にとっては夢のような出来事だ。


しかも彰の髪の毛には寝癖がついていて、とてもかわいらしい。


彰のこんな姿を拝める人なんて滅多といないだろうし、まるで新婚さんみたいだ。


そんな浮き足立った気分になったとき、彰が冷蔵庫を開けた。


「なにもないだろう。昨日のカレーは蘭が買ってきてくれたんだよな?」


今まで『お前』と呼ばれていたのに突然名前で呼ばれ、蘭の心臓は大きく跳ねた。


緊張から背筋が伸びて、大きくうなづく。


「悪かったな。買い物、一緒に行こうか」


「い、いいんですか?」


声が裏返った。


昨日のカレーも掃除も、蘭がやりたいと思ったからやったことだ。


それが今日は一緒に買い物へ行こうと誘ってくれている。


蘭にとってそれは大きな一歩と同じことだった。


「いいもなにも、買い物に行かないと食いものがないだろ」


彰はそう言うと『着替えてくる』と蘭に言い置いてキッチンを出た。


その後ろ姿を見送った蘭はすぐに和室へ入り、着替えをした。


彰はなにも言わなかったが、まだ彰のTシャツを着たままだったのだ。