その日から、2人の奇妙な共同生活が始まった。


彰は蘭を出て行かせるタイミングを失い。


また、死ぬタイミングも失った。


「明日は、庭のゴミを出しに行きましょう」


夕食時になると、蘭がそう言ってきた。


ダイニングテーブルには昼間のカレーが2人分並んでいる。


「あぁ、そうだな」


彰はうなづく他ない。


自分が誘拐した相手とこんな風に会話するなんて考えてもいなかったが、今更蘭を拘束しなおすのも違うと感じる。


「それから雑草もどうにかしたいですね。せっかく広い庭があるのに、もったいないです」


庭の手入れなんて考えたこともなかった。


彰の生活はいつも大学とバイトで回っていて、家には寝るために戻ってきているようなものだった。


休日にはバイトが入るため、手が回らなかったとも言える。


庭があることは当然わかっていたが、雑草が伸びていることなんて気がついていなかった。


そのくらい、狭い視野で生きてきたのかもしれない。


自分が帰って来る場所なのに。