「俺はお前を誘拐したんだぞ? しかも、殺そうとした!」


自分がムキになっていることがわかっていた。


だけど蘭の笑顔を見ていると怒鳴りたくなる。


何度も言うようだけれど、自分の状況を理解していなさすぎる。


蘭は一瞬目を見開いて驚いた表情を浮かべたが、さっきまでのように不安そうな顔にはならなかった。


そしてそれもほんの一瞬のことで、すぐに強いまなざしを彰へ向けた。


「だけどあたしは今生きています。そして、自分の意思でここにいます」


物怖じしない蘭に彰のほうがたじろいでしまった。


視線をそらし、返答に困って目の前のカレーに視線を落とす。


「それなら……どうしてここにいるんだ?」


かろうじてそれだけ質問することができた。


しかしその声はさっきまでの気迫が失われている。


蘭は微笑み「あたしがここにいたいと思ったからです」と、当然のように答えた。


彰はもうなにも言わずカレーをすくって食べ始めた。


彰の体調を考慮してか、お米はやわらかく炊かれている。


カレーも甘口で喉へ入っていきやすい。


ふと、人が作った料理を食べるのは何年ぶりだろうかと考えた。