「どうしてって、言われても……」


逃げるつもりでいるなら、最初に彰が吐血した時点で逃げている。


だけど蘭は逃げなかった。


彰もそれで納得してくれたと思っていたから、予想外の質問だった。


「それに、これ、どういうことだよ」


部屋の中を見回して彰は聞く。


「か、勝手に掃除してごめんなさい! だけど、汚れている部屋にいたら、余計に彰さんの体調が悪くなると思って!」


怒ってほしくなくて蘭は早口になる。


彰は目を見開いて蘭を見つめた。


本気で言っているのか?


本気で、俺のことを心配してこんなことを?


その上、『彰さん』って……。


俺は誘拐犯だぞ?


彰の頭は混乱するばかりだ。


目の前にいる蘭のことが余計にわからなくなっていく。