相変わらず体は重たかったが、そんなこと気にしている場合ではない。


慌てて部屋を出ると更にカレーの匂いが強くなる。


それに心なしか廊下がきれいになっている気もする。


大またでキッチンに向かってドアを開ける。


その瞬間、驚いた表情の蘭と視線がぶつかった。


蘭はカレーの味見をしている真っ最中で、お玉でルーをすくい、口元に持っていっているところだった。


そのままで動きを止めている。


「……なにしてる?」


彰は愕然とした声で聞いた。


蘭は弾かれたようにお玉を置いて「あ、勝手にキッチン使ってごめんなさい」と、頭を下げた。


彰の声色が怖くて、怒られていると勘違いしたのだ。


彰は真っ直ぐに蘭に向かって近づく。


殴られると勘違いした蘭は身を硬くしてうつむいた。


「どうして逃げないんだ」


「え?」


彰の問いかけに蘭はゆっくりと顔を上げる。


そこには彰の険しい表情があった。